高天原異聞 ~女神の言伝~

5 通い合う心


 かすかに届く雨の音が、俄かに美咲を現実に返らせる。
 気づいた慎也が、名残惜しげに唇を離した。

「どうかした? 美咲さん」

「――今何時なの?」

 腕時計を見つつ、

「五時半すぎ」

 慎也が答える。

「もう閉館時間すぎてるじゃない。戻らないと」

 慌てて慎也から身体を離す。

 仕事中になんてことを。

 美咲は顔から火が出そうだった。
 雰囲気に流されて人気のない書庫などで。
 慌てる美咲にも慎也は動じない。

「大丈夫、山中先生なら先に帰ったから。美咲さん気づいてないけど、図書館ももう山中先生と閉めたよ。今館内にいるのは俺と美咲さんだけ」

「信じられない――山中先生に気づかれたらどうするのよ!」

「二人で残ってたぐらいで気づかれないよ。俺、先生のお気にだから、喜んで鍵預けて帰ってったよ。美咲さんのことも褒めてた。若いのに全然作業を嫌がらずにやってくれるから、仕事がはかどるって。万が一疑ってても見逃してくれるよ」

 余裕綽々で答える慎也に、美咲は困ってしまう。
 これではどちらが年上なのかわからないではないか。
 ふりまわされっぱしで、翻弄されるのはいつだって美咲のほうだ。
 慎也に出会ってから、慎也の前では、いつもおろおろしている気がする。



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