密会は婚約指輪を外したあとで

低く洩らした言葉を、私は聞き間違えたかと思った。


「お世辞、言ったわけじゃないんだから」

「…………」


黙って一馬さんを見ると、彼はハンドルを軽く握りながら優しく目を細めていた。

怒っていたわけではなかったようで、ホッとする。


「私……自分に自信がなくて。どうせお世辞だろうし、何か裏があるかもと思って謙遜とかしちゃうんですよね」


一馬さんは話しやすいタイプなのか、つい、密かな悩みを打ち明けていた。


「そっか。それは勿体ないよ」

「……そうでしょうか」


どうやったら自分に自信が持てるのか、街角の人に聞いて周りたいくらいだ。
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