密会は婚約指輪を外したあとで

真意の掴めない彼の誘いを断り切れなかったのは、拓馬さんとの繋がりがなければ、可愛いハルくんとは二度と会えない気がしたから。

──というのは建前で、本当は心のどこかで、彼らともう少し一緒にいたかったのだと思う。


彼らの心の裏側を知って、僅かでもいい、必要とされたかった。

何の取り柄もない自分が、誰かの役に立ちたかった。



思えば、私と一馬さんの関係は、どうなってしまうんだろう。

子どもがいることを隠していたからって、冷たくし過ぎただろうか。




ため息をつかずにいられない、独りきりの帰り道。

藍色の夜空を見上げると、淡い光を零す月が、黒い雲にそっと隠されていった。




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