密会は婚約指輪を外したあとで

思ったことが顔に出ていたのか、翔さんは薄く笑い、ヘアアイロンで私の髪を緩く巻き始めた。


「あいつは素直じゃない所があるからね。可愛い子に可愛いって、正直に言えないタイプかもな」


翔さんの話を聞いていくうちに、彼は拓馬の高校時代の先輩だということがわかった。

学園祭で演劇部の人手が足りなく、拓馬と翔さんがヘルプとして呼ばれたことが出会いだったらしい。その演劇、私も見たかった。

二人とも目立つ外見だから、高校時代は相当人気があったはず。


「拓馬も彼女とか、たくさんいたんでしょうね」

「んー、どうだろう。まあ、あの外見だから、それなりにいただろうね」


やっぱり……。


「だけど拓馬は昔から、それほど好みは変わっていないと思うよ」

「そうなんですか……?」


派手な美人が好きだと聞いていたから騙されていたけど──。

思ったとおり、あの人妻の女の子のことを拓馬は好きなんだ。

変に着飾らなくても可愛い、自然体のあの子のことを。


翔さんなら拓馬の過去も、不倫の事実も少しは知っているだろうか。

けれど、そんな深くまで聞くのはさすがに失礼だと自制する。



ヘアセットが一通り終わり、メイクへと移る。


「奈雪ちゃんって、こっちの色の方が似合うんじゃない?」


翔さんが提案してきたのは青みがかったピンクの口紅だった。
< 94 / 253 >

この作品をシェア

pagetop