もっと溺愛以上

大きくなった怪獣



『ささやかな幸せを、大切に』

誰かに言われたわけでもないけれど、私がとても重要だと考えている言葉。

私が小さな頃から、母が病弱で、寝込む事もしょっちゅうだったせいか、日々の穏やかな時間を大切なものだと思いながら過ごしてきた。

『私の体が弱くて、桜を一人っ子にしてしまって、ごめんね』

何度か、そう言って、切なく笑う母に

『大丈夫だよ。手のかかる弟二人がいるから。なんたって、怪獣だもんね、あの二人は』

大げさすぎる明るい声の私に、母は優しく微笑んでくれた。
父が、愛してやまない母の笑顔。
学生時代……ちょうど、今の私くらいの年齢の時に交通事故に遭った母は、それ以来体に障害を抱えて生きてきた。

そんな体を理由に、父との結婚に二の足を踏んでいた母。
子供を産む事すら望めない自分が結婚するなんて、できないと諦めていた母。

それでも、父の母への愛情の深さに陥落。
結婚を決めて。

そして、私が生まれた。

私が生まれた事は、奇跡に近かったらしい。

母が妊娠して、出産までの、父の胸中を思うと苦しくなる。
私の命と引き換えに、母を失っていたかもしれなかった。

『柚さえいれば、俺はそれでいい。寝込んでいても、それでいいんだ』

今でも力強い、甘い父の言葉。

奇跡の神様のおかげなのか、母も私も今は生きている。

けれど、もしも、もしも。

私しか生きていなければ……。

私の今は、どうなっていたんだろう。



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