蒼の王国〜金の姫の腕輪〜

過去を求めて

‡〜探して〜‡

「っ…?蒼葉様…?」

広大な屋敷の一画。
市の図書館並みの広さを誇る地下書庫。
最も奥に並べられた本棚の前で、突然呼ばれたような気がして思わず後ろを振り返り、首を傾げる。
ここにいるはずのない人の声。
開いた書物に目を落とし、ため息をついた。

「…蒼葉様…」

蒼葉が出掛けてから早三日。
”クウル”の話によれば、扉は満月の夜にしか開かないそうだ。
だが、当然次の満月の夜まで待つ事はできない。
その上、あちらの世界とこちらの世界では、時間の経過が違うらしい。
こちらの一日が、あちらの六時間程だと言うのだ。
三日たった今、あちらではまだ一日経ってはいないが、もう日が暮れる頃。
悠長にしている暇はない。

《みみゅ?〔みつかった?〕》
「いや…さっき見つけたのにも、鍵の在りかについての記述はなかった」

探しているのは、扉を開ける為の”鍵”。
その”鍵”は、満月を待たずとも、いつどんな時間であっても、あちらを繋ぐ事ができる特殊な物なのだそうだ。
その”鍵”が、こちらの世界に持ち込まれていたらしい。
だが、今どこに在るのかは、クウルも知らないと言うのだ。
もし在るとすれば、この屋敷の中か縁ある場所。
屋敷の中は、”イル”達”ナルス”が総出で捜索した。
縁のある蒼葉の生家は、今密かに捜索中とのこと。
何もできないでいる間、可能性があればと思い、ダメ元で書庫で”鍵”についての記述を探してみれば、意外にもあちらの世界から移って来た者達が書いたものらしき書物がたくさんあった。

「そもそも、誰が持ってきたのか、お前は知っているのか?」
《みみゅみむ〔ばるとだよ〕》
「バルト?
それは蒼葉様の従者かなにかか?」
《み…みみゅみ…みむぅ〔ひめを…ひめをころしたひと…でもすごくあいしてた〕》
「…殺したのに…愛していた…?」
《みゅみむ…みみみみゅみぃ…〔たたかいがおわったら…ひめをおよめさんにするつもりだったって…〕》
「当時の蒼葉様は…その想いを知っていたのか…?
《みむ…みみみゅみみ…〔しらなかった…ひめはそういうおもいはわからなかったから…〕》
「…そうか…」

今の蒼葉も、向けられている”想い”に鈍感だ。
どれ程辛かっただろう。
あの”夢”のように…。
愛する人を亡くして。
愛する人を手にかけたと知って。

「…俺なら…」

言葉を継げなかったのは、込み上げたもののせいだった…。


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