さよなら、いつか。①―幕末新選組伝―

「あずみちゃん、びっくりしたよ。」




「沖田さん!」




尋問を終えた私に沖田さんが歩み寄ってきた。




沖田さんの他に、もうひとり。




あれはさっき戸を開けてくれた人。




お、お礼言わなきゃだよね…。



そうは思うけれど、どうしても名前が出てこない。



うう、どうしよう。



思わず手元に視線を落とすと、優しい声が落ちてきた。





「あずみさん。」




「は、はひっ!」


  
きゃああ、噛んじゃった!




沖田さんがプッと吹き出したのを見て、しゅんとなってしまう。




でも、その人は馬鹿にした様子はなく、やはりにこりと微笑んだ。




「私は副長の山南(さんなん) 敬介です。よろしくお願いしますね。」



山南敬介さん。




副長は土方さんのイメージが強かったから、こんなに儚い人が副長だとは信じられなかった。




眼鏡の中の瞳は優しく弧をえがいている。



まじまじと山南さんを見つめると、柔らかく口を開いた。



「これから、よろしくお願いしますね。」



そのしなやかな身の振る舞いは武士というより貴族のよう。



永倉さんとは大違いだなあ。



「こちらこそよろしくお願いしますっ!」



深く頭を下げると、山南さんは嬉しそうに笑った。



山南さんがいい人そうで良かった。


これから幹部の人と関わる機会は増えるだろうから、みんなと早く仲良くなれるといいな。




「あずみちゃん、部屋を案内するからついてきてくれる?」




沖田さんがおいで、というように手招きしてきたのを見て、沖田さんの後を追いかけた。
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