一部のよそ
一部のよそ
 蝉の声がうるさい。

 はつ恋の女の子が死んだ。

 それ自体はよくある話で、でもぼくの歳では、交通事故か不治の病か、そんな理由に限られていて、そういった事態に遭う確率は高いとも思えなくて、だから、そうない話。つまり、ありそでなさそな話。さらに、現実の話。

 無人駅に降り立てば、蒸れた土と青い葉の匂いが鼻につらい。田舎の夏にかぐ匂いは、精液のそれによく似ている。そういえば、真夏は、精子もだらけるらしい。

 だらけた命の匂いがむっとするここに彼女はひとりで帰ってきた。ぼくをおいて、ひとりだけで帰ってきた。

 蝉の声がうるさい。
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