アラサーだって夢をみる

あり得ない出会い



イベントが終わり、雲の上を歩くような心地でホテルに戻った。

「終わっちゃったなあ」

想像していたよりもずっとずっと素敵な人だった。

終了後、出口で三神さんが一人一人と握手して御礼を言ってくれたのだが。

「私、何言ったっけ」

多分、

10周年おめでとうございます。
福岡からきました。

この二つは言えたと思う。

握手の時、凄く見上げたような気がするので、背も高かったに違いない。

ありがとう、の言葉に完全に舞い上がって、その後どうやって帰ってきたやら。
三神さんの手の感触なんか全然残ってない。

思い出そうと思ってもいろんな気持ちがごちゃごちゃで、軽いパニック状態のようだ。

何をしたらいいかわからない。
でも何かしなきゃ。

「そうだ、メイクを落とさなきゃ」

鏡に映った自分は 別人のままで、それも現実に戻れない原因なのだと思った。

早く。

夢から覚めなきゃ。

アイメイクを落とすのに苦労したが、何とか終了して鏡をみる。
見慣れた私がきょとんとしていて、少しほっとした。

ただいま、と笑う。

お風呂に入ろうかと思ったが、まだ20時を過ぎたばかりだ。
絶対今夜は眠れないだろうし。

「ラウンジでコーヒーでも飲もうかな」

折角のクラブフロアなんだし。
もしかしたらスイーツが残ってるかもしれないし。

ここのケーキは美味しいと評判なのだ。
残ってますようにと思いながら、私は部屋を出た。


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