愛を待つ桜

(1)届かぬ想い

どれくらい、そうしていたのだろう。夏海は悠の寝顔を見ながら、ベッドサイドに座っていた。

背後でドアの開く音がして、振り返ると聡の姿が……。

その表情は凍りつき、夏海には死神のように見えたのだった。



匡は由美に付き添い、救急車に乗り込んだ。
呆然と救急車を見送る夏海に、実光は頭ごなしに命じた。


『いいかね、子供が起きたら、黙ってマンションに戻りたまえ。この家には2度と来ないでくれ。私の言いたいことは判るな。君には失望させられたよ。3年前も、今回も……残念だ』


玄関の扉は、夏海の鼻先で閉ざされた。

あかねは由美のことで頭がいっぱいらしく、夏海のことは二の次だ。ふたりは呼びつけておいたハイヤーで搬送先の病院に向かう。

広い邸に夏海は悠とともに取り残された。



「電話で……話は聞いた。お前はこの邸で、匡と密会していたのか」


聡の怒りようは凄まじく、今にも夏海に殴りかからんばかりだ。

それでも悠を起こすまいと、聡は夏海の腕を引っ張り、廊下に出る。


「違います! キッチンでコーヒーを飲んでいただけです。それを、由美さんが誤解されたんです」



――ダンッ!

夏海の言い訳を聞いた瞬間、聡は拳で壁を叩く。


< 168 / 268 >

この作品をシェア

pagetop