愛を待つ桜
(私はなんて馬鹿なの? 避妊なしじゃ2度と受け入れないって決めてたのに)


しかも、自分を蔑んでるだけの愛してもくれない男となんて、愚かにもほどがある。

已むに已まれずとはいえ、情熱に流されたリスクのほとんどは女性が負わねばならないのだ。
そのことは誰よりも知っていたはずなのに。

それでも、聡の誘惑には逆らえない。心が抵抗しても体が裏切ってしまう。

夏海はこみ上げた涙を必死で隠し、聡の顔を見ぬまま洗面所に飛び込もうとした。


だがそのとき、不意に腕を掴まれたのだ。
夏海は驚いて聡を見上げる。彼の表情は、未だその瞳に情熱の炎が灯っていた。


「まだ、だ」


聡は敷かれた布団を視線で示しながら、さっさと体に残っていた服を脱ぎ始める。

面食らった夏海は、


「一条……先生、あの」

「聡だ。さっきはそう呼んでくれた」


全てを脱ぎ捨てると、今度は棒立ちになった夏海の服にも手を掛けた。

1度はおさまりかけた情熱の火に再び薪をくべられ、夏海は為すがままになってしまう。

聡に抱かれたい。

彼に与えられた官能の悦びを、共に味わった至福の天国を、忘れることなどできなかった。


「聡さん、私」

「今夜は……今夜だけは何も言わず抱かれてくれ。頼む」


体を覆う最後の1枚を剥がされた。

聡は縋るような視線で夏海を見つめる。

イエスの代わりに、彼の唇にキスして……夏海は目を閉じた。


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