愛を待つ桜
「とにかく、そういったことも全部、家で話します。ここではちょっと……」

「しかし、なんだってまた、この時期なんだ。匡が……あ、いや」

「子供は本当にあなたの子供なの? それとも何か事情があってあなたが面倒を見ないといけないの?」


父は口ごもったが、事情の知らない母は別の意味で聡を問い質す。


「いや、ですから、それも……」


幸い昼食タイムで如月以外は全員が事務所を空けていた。
部下に親との確執など見られたくはない。それに、夏海たちも待たせてある。

とにかく、事務所から連れ出し、夏海たちが待つエレベーターホールとは逆のエレベーターに誘導しようとしたときだった。


「パパぁ!」


フロアの角を曲がり、父親を見つけた悠が叫んだ。悠は一目散に走ってくる。
そのまま、実光とあかねの横をすり抜け、聡に飛びついた。

少し遅れて、悠の後を追って来た夏海は、実光らの姿に驚き息を呑む。

聡は追い返す計画を諦め、大きく深呼吸した。

そして笑顔で悠を抱き上げると、夏海の隣に立つ。


「紹介するよ。妻の夏海と息子の悠だ。悠――お前のおじいちゃんとおばあちゃんだぞ」

「おじいちゃん?」


悠は言い慣れない言葉を口にして、不思議そうに皆の顔を見回している。


「一条社長……奥様も、ご無沙汰しております。その節は大変お世話になりました」


夏海は秘書の顔になり、深々と頭を下げたのだった。


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