琥珀色の誘惑 ―日本編―
「それは立派な心がけだ。だが君は呼称を間違えている。これは私の妻となる女だ。“お嬢様”という呼びかけは不適当だ」


院長は舞より背が低い。
それをミシュアル王子に見下ろされ、蛇に睨まれたカエル、それもガマガエルのようであった。
しかも、よく油が搾り取れそうなメタボ体型だ。

ガマ院長は一瞬で王子の不興を買ったことに気づいたのだろう。
慌てて裏返った声で言い直した。


「は、はい。ご、ご、ご婚約者、さまでございます」


そんな院長の返事に頷きながら、ミシュアル王子の瞳は更に凶悪な光を湛えた。


「いいだろう。それと、今一度確認しておく。我が国では、妻の体を夫以外の男が目にすることはあり得ない。この度の検査は決して男が立ち会ってはならない。加えて、君が私の妻となる女を見る目は、非常に不愉快だ」


一国の王子から不快感を露わにされ、院長の顔は油切れで真っ白になり今にも倒れそうだ。


「も、も、もうしわけ、け、け」


絨毯の上にひれ伏して謝りそうな院長の横を、ミシュアル王子は一瞥もくれず通り過ぎる。


「舞、帰るぞ」

「あ……はい」


おかしい……赤の他人に近い男性に「これ」とか「俺の女」みたいに言われて、どうして怒らないのだろう。

だが、舞はこれまで「デカイ」とか「怖ぇー」とか言われても“自分のモノ”なんて言われたことはなかった。

それが、プリンス・シークの傲慢な言葉に面食らい、突然、ピンクのドレスが似合う可愛い女の子になった気分なのである。


(それって、わたし……マゾだったの?)


舞は混乱を覚えつつ、必死でミシュアル王子の後を追いかけたのだった。 


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