生意気なハケン君
♢結婚が逃げた夜♢
「結婚は無かった事にして欲しいんだ」

「――は?」






予想外の一言に、目が点になった私。





都心にある、三ツ星レストラン。




窓側から見える東京の夜景はまるで宝石箱のよう。





周りはカップルばかり。



皆互いを見つめ合いながら幸せそうな笑顔で、一流のフランス料理に舌鼓している。





「だって……、君は仕事一筋じゃないか」







私の目の前に座る一人の男性が、



眉間に皺を寄せて苦痛の表情を浮かべながら言った。




「でも、徹さんは結婚しても仕事は続けていいって……」

「それは君のためを思って言っただけだよ」






皿の上に盛られた、彩り豊かな前菜に手をつける余裕も無い私。



相手の言葉とその表情に、

思わず頬に冷や汗が垂れた。
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