三日月の下、君に恋した
7.キスは伝える


 黙りこんだ航を見て、菜生はとまどっているようだった。


 航は自分が手にしている色褪せたハンカチを見下ろして、奇妙な感覚に襲われた。あのとき自分が選んだものが、ここにある……。


 古くなってはいるけれど、ハンカチには丁寧にアイロンがあてられている。糸のほつれや破れた部分も見あたらなかった。大切に使われてきたことは、ひと目で分かる。

 聞きたくないことを、聞かなくてはならない。


「その文通は……いつまで?」


 彼女の瞳に暗い影が落ちた。それでも笑おうとしている。

「十四歳まで。返事が来なくなっちゃって。考えてみれば当たり前だけど。きっと忙しくて、私みたいな見ず知らずの子供にかまってられなかったのよね」


 そうじゃない。


 航はハンカチを握りしめていた。


 北原まなみは、十三年前の夏から返事を書くことができなくなったのだ。彼女はもうこの世を去り、二度と菜生に返事を書くことはない。
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