弟矢 ―四神剣伝説―
同じ宿の一部屋で、弓月らは東国に戻る手立てを思案していた。


「姫……どう考えても、街道を行くのは危険でござろう」

「そうだな。山越えは大変だがやむ得ない。一旦、京に抜けよう」

「されど、一つ懸念が」


長瀬が暗い顔で続けた。


「あの男が蚩尤軍に通じておれば、すでに罠が張られている可能性もござる」

「だが、長瀬殿。街道は危険、山にも罠があるとなれば……空を飛ぶか、地に潜りましょうか?」


正三は軽口で応じる。だが、新蔵は違った。


「あの野郎をもっと締め上げてやればよかったのだ! いや、裏切り者であるならいっそ」

「新蔵、もし奴が敵に通じていれば、あの場に長く留まる方が危険であろう。それに、姫様の前だ……言葉を慎め」

「奴が使えぬ男だとわかった以上、関わる理由もない。二度と口にするでない」


弓月を気遣う正三と、容赦なく切り捨てる長瀬に諭され、意気消沈して黙り込む新蔵であった。



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