弟矢 ―四神剣伝説―

四、夜明け前

「奴だ……あの野郎が俺たちを売ったんだ!」


新蔵が口汚く乙矢を罵った。

確かに、弓月は「山側の町外れに建つ宿に泊まっている。何か話したいことがあったら訪ねて下さい」――立ち去る直前、乙矢にそう告げたのだった。


「乙矢殿が保身のためになさったことなら、仕方のないことだ。居所を明かした私の責任だ。皆、すまない」

「姫さまのせいじゃありませんよ! おいらも、新蔵さんと同じ意見です。そんな奴は男じゃない!」


頭を下げる弓月を、弥太吉は必死に庇う。

その時、斥候に出ていた正三が戻って来た。


「弥太、大きな声を出すな。誰のせいとか言ってる場合じゃなさそうだ。――姫様、山の北口と東口を押さえられました」

「なんだと!」


長瀬が声を上げる。さほど大きな山ではない、夜明けと共に山狩りをされたら一発で見つかるだろう。闇に紛れて包囲網を突破する以外に道はないのだ。


「他に道はないのか?」


比較的、冷静な声で弓月が尋ねた。


「わかりません」


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