弟矢 ―四神剣伝説―

四、決戦の時

「お止めください! 一矢殿!」


宗次朗の言葉が正しいなら、一矢は父や兄を死に追い込んだ仇。だが、弓月の中に「討たねば、あの世で合わす顔がない」と叫んだ時の憎しみは消えていた。

それどころか今の弓月は、全ての原因を作った宗次朗にすら、同情を感じている。

裏切り者の末裔と汚名を受けながら、『朱雀』の守護を押し付けられたという。弓月には誇りとなる自らに流れる血も、宗次朗にとっては苦痛に他ならなかったのだろう。


弓月の中で、敵は敵、裏切り者は裏切り者と思えなくなった。


だがそれは、とてつもなく苦しい。何も思わず、仮面の男や蚩尤軍を、ただ憎んでいた時がどれほど楽であったか……。かつて乙矢は、蚩尤軍兵士も誰かの家族だ、と事も無げに言った。その心が如何に強かったか、弓月は思い知る。


「止めても無駄であろうな。いや、今のこの男から『青龍』を離せば、すぐに命は尽きよう」


宗次朗は一矢と対峙しながら、静かに『朱雀』を鞘から抜いた。

やはりそうだ……弓月は胸の中で呟く。『朱雀』から燃え立つように見える炎は、宗次朗を主だと言っていた。この事実は認めざるを得ない。

片や、一矢の持つ『青龍一の剣』は、弓月や乙矢が手にした時と明らかに違っていた。

黒みを帯びた藍色の刀身は、森の暗さのせいだけではないだろう。


「一矢殿! 乙矢殿が参ります。きっと乙矢殿の力で助けて下さいます。どうか、早まったことだけは……」


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