弟矢 ―四神剣伝説―
薄い襦袢一枚の姿は、どこから見ても女郎だった。


乙矢は宿場女郎の最下層、船女郎の面倒を任されていた。女郎から上がりの半分を巻き上げる。それを宿場の元締めである、地回りの連中に渡すのだが……。


「あんたがハネたんじゃない。あたしが嘘をついたんだって、言ってもよかったんだ。それなのに……」

「もう、いいよ。別に、どうってことねえし」

「だけど……」

「礼なら、体で返してくれたらいいから、さ。また、やろうぜ」


乙矢は彼女の手を借りて立ち上がりながら、その尻を撫で上げた。


「やだ、もう……こんだけ殴られても、ホント、元気だよねぇ」


女郎も、思わせぶりな微笑で返したのだった。



乙矢の寝床は、川岸に打ち上げられた屋形船の残骸だ。かろうじて屋根はある。雨露さえ凌げれば、贅沢を言っている場合ではない。

川の水で泥をサッと洗い流すと、次は手ぬぐいを濡らし、傷を拭っていった。

その体躯は少年のものではないが、大人の男とも言い難い。泥に汚れていても、若竹のような瑞々しさを持っている。無造作に伸びた髪が肩に掛かり……昼間は邪魔にならない程度に括っているが、今は乱れたままであった。


季節はもうすぐ夏に向かう。乙矢はほんの数週間前、十八になった。それは一人で迎えた初めての誕生日だった。


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