エロスからタナトスへ
16 待つ
夜になっても、ジョンフンは帰ってこなかった。

でも、彼を部屋で待つなんて、なんて贅沢な幸せなんだろう。

今までの生活?

そんなものは、いつ捨てたっていいと思っていた。

好きな人と一緒にいられるなら。

昨日は、彼の腕の中で何もかも忘れたと思えた。

でも実際には、そう簡単に人生リセットできるはずもない。

不安がないわけでもない。

彼の持ち物に触れてみた。

水を飲むグラス。

お気に入りのパソコン。

昨日着ていたシャツ。

どれをとっても手にすることなど、

決してできなかったものだ。

愛しい人のものは、すべて愛しかった。
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