美味しい時間

黙々と洗いものをしていく。
でも、その事を考えないようにすればするほど……。

ダ、ダメだ……考えちゃうよ。

知らない間に洗う手がどうしても止まってしまう。

「こういう時は心を落ち着かせて」

自分にそう言うと、大きく深呼吸した。

……あはははは。何も変わらな~いっ!!!

困り果てて頭を抱えていると、玄関がガチャっと音を立てた。
慌てて洗い物に向き直る。そして、あくまでも正常心で声をかけた。

「け、慶太郎さん、お、お、おかえりなさい」

どこが平常心っ!! 声が上擦って動揺丸見えじゃないっ!!!

「た、ただいま。どうしたんだよ?」

ほらっ課長の顔、絶対になにか不審に思ってるよ。
それでも顔を引きつらせながら笑ってみせると、微笑返してくれた。

それにしてもコンビニが近いとは言え、やけに帰ってくるの早くないかなぁ。
課長の手を見てみると、買い物してきた様子もない。

「あのぉ慶太郎さん? 何買ってきたんですか?」

「うん? 大したもんじゃない。気にするな」

じゃあ何で今買いに行ったの?
すっごく気になるんですけど……。
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