美味しい時間

その後は黙々と仕事を進め、気づくともうすぐ12時になろうとしていた。
ガタッと音を立てて課長が席を立ち、フロアを後にする。
私はいつもと同じように、10分から15分時間をずらして会議室へ
向かおうと、仕事の後片付けや机の整理をしていると、1人の先輩お姉様が
ツカツカと靴を鳴らしてやってきた。

「藤野さん。ちょっといいかしら?」

「は、はい……」

「今日のランチ、一緒にいかが?」

「えっ?」

何で私に声かけるの? 今まで一度だって誘われたこと無いのに……。
いかが?って言われてもねぇ。

「すみません。他に約束がある……」

断りの言葉の途中で、ガッと腕を掴まれた。
その力に、身体が硬直する。

「いいじゃない、たまには」

声は優しいけれど、目は笑っていないし、腕を掴む力がどんどん強まって
いった。
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