美味しい時間
電話が切れた瞬間、自分の中の力が全部抜けてしまった感じだ。
ダラっと腰掛けていた椅子から意味もなく立ち上がると、部屋の中を
キョロキョロと見渡す。キッチンで目が止まる。いつもなら、大好きな料理を
していれば何もかも忘れられた。でも、何も作る気が起こってこない。
そろそろと足が勝手に歩き出す。足にベッドの枠が当たる感触がすると、
そのまま倒れこんだ。
手を伸ばして枕を掴むと、それを引き寄せ顔を埋めた。そして外に声が
漏れないように声を押し殺して泣いた。泣き続けた。