美味しい時間
「寒いんだろ?」
「えっ?は、はい……」
恋人同士じゃなくても、手って握っていいんだ。
そんなことを考えながら歩いていると、課長が意外なことを聞いてきた。
「百花って、今付き合ってる奴いるの?」
「い、いませんよ」
「じゃあ好きな奴は?」
「いないって言ってるじゃないですかっ。何でそんな事聞くんですか?」
「そ、それは……」
課長にしては珍しく、口ごもる。
私の恋愛事情なんて聞いて、どうするんだろう。
なんて、私には恋愛事情なんて全く皆無じゃんっ。
「こんな事言うの恥ずかしいんですけど、私今まで一回も男の人と付き合ったことないんです」
照れくさそうにそう言うと、握っていた手に力が込められた気がした。
「ふ~ん。だから反応が初々しいんだ……」
ブツブツとそう呟く声が聞こえた。