ひとまわり、それ以上の恋
「君がプライマリーのランジェリーに賭ける熱意は、人事部長から聞いていた。次のコレクションに向けた商品開発プロジェクトでは、僕が引率することになってる。研究熱心な君から色々意見をもらえたら嬉しいと思ってね」

 端正な顔立ちには、年齢を重ねた分の渋さと、永遠に少年と呼べるようなやんちゃさが同居している。

 それから、と顔を覗き込まれて、息が止まりそうだった。思わず首根っこをひゅっと窄めると、

「一番は、子猫みたいな君がタイプだからかな」
 そう言って皺を刻んだ極上の微笑みは、どう考えても反則……。

「元気なパワーをもらえそうな気がする」
 いやだ。私、何を勘違いしているんだろう。
 場つなぎの言葉を探して、ドキドキを押し隠す。

「どこか、調子の悪いところがあるんですか?」
「んー、あるとすれば、最近、低血圧なんだ。朝食がまともに食べられてなくて、参ってる。だから――手を出して」 
「え?」

 触れあった指と指、まるで電流が走るみたいだった。冷たい鍵がひんやりと掌に落ちてきて、彼は私の手をぎゅっと握った。
 私の手の中に何か冷たいものが落ちてくる。

 これは……鍵?
 掌の中で形を確かめて、ドキリとした。

「住所は――」
 ……ひそひそと私の耳の側を通り過ぎていく、甘ったるい声。
 その瞬間、私の全身に今まで感じたことのない感覚がゾクゾクと走った。


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