私が“二度目”に恋に落ちたのは、三月、桜の蕾が開きはじめる頃、入社説明会の日だった。



 代官山にある本社オフィスに到着後、私、菊池円香《きくち ともか》は、一流企業を前にして、圧倒されていた。

 ビルの外観はもちろん、ロビーの広さ、行き交う人は皆忙しそうで、ひとりまごついていた。

 きょろきょろと目を動かし、やっとのことで説明会会場と書かれた案内を見つけた。

 エレベーターに向かおうとして小走りで駆けていくと、誰かの肩にどんとぶつかった。

 その拍子に脇に抱えていたクリアファイルが床に滑り落ち、中身を派手にばら撒いてしまった。

「ごめんなさい」
 しっかり閉めたつもりでいたのに。
「いや、こちらこそ、ごめん」
 慌てて拾おうとすると、相手も手伝ってくれて、ハイと私に手渡してくれた。

 顔をあげると、彼はにこりと優しい微笑みをたたえていた。あまりにも素敵だったから、私は一瞬見惚れて声が出なかった。

 すらりと伸びた背、やわらかそうな紅茶色の髪、貴族顔負けの甘い目元、整った鼻梁、おだやかな微笑み、年齢は亡くなった父ぐらい……だから四十近いくらい。

 父が生きていたら、こんな雰囲気かもしれない。なんて、美化しすぎて天国にいる父が聞いたら、笑ってしまうかもしれない。

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