ひとまわり、それ以上の恋

 電車の時刻を確認して、代官山で降りるように彼に告げた。

 駅を出たらオフィスから十分も離れていない距離にある『boulangerie bio.』というお店が目的だ。

 ちなみにbioというのはフランス語で使われるオーガニックのこと。ベルギー生まれの紅茶専門店『boulangerie bio.』の中にあるパン屋さんがある。

 ここは日本第一号店として代官山にオープンしてから、テレビや雑誌で度々取りあげられ、有名人御用達といわれるほど人気のお店。

 抱き枕のような大きさのフランスパンや、クッションサイズのピザパンなどが目玉で、紅茶専門店のティーラウンジでお茶をしながら食べることが出来る。

 パンの方に注目しがちだけれど、市ヶ谷さんのようにオーガニック、無農薬、専門の業者から買い付けた茶葉をオーナーが提供している、という拘りが好きな人にここは人気みたいだ。

 大体カフェを利用するのは、ビジネスマンやOLで、プライマリーの社員で朝ここを利用する人も少なくない。かく言う私も。

 市ヶ谷さんとの共通点をひとつずつ見つける度に、密かに心の中で喜んでいるなんて、なんだか悔しい。

「好きな物を頼んでいいよ。紅茶はいつものオーナーのおススメをいただこうかな」

 女の涙に弱いというのは、市ヶ谷さんも例外ではなかったらしい。

 父親宣言をしたからには、と、世話を焼いてくれちゃって……。

 案外、市ヶ谷さんって飄々としているようでいてフェミニストっていうか、女の人の尻に敷かれちゃうタイプだったりして。
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