「……加納さんは、佐々木を殺した人物なんて

『いない』って思ってるんですね」


「だってそんなの。

経田の証言の上でしか存在しないだろ」


「でも。……経田は確かに何かにすごく怯えてました」


「妄想、思い込み、だとは思わない?」


「あの事故の時。

経田は明らかに何かを見て、

その何かから逃げ出したんです」



私の言葉に加納さんは少しだけ首を傾げて、

ああ、と手を叩いた。



「山川もそんな事言ってたね。

……でも何を見て表情が変わったの」


「それがわからないんです。

加納さんは気付きませんでしたか?」



う~ん、と視線を上向けて考えて、

諦めた様に首を振る。



「あの時俺、後続車両の方で待機だったからな。

突然逃走したって事しか記憶にないんだよね」


「……そうですよね」



結局あの時経田が何を見たのかは誰にもわからない。



調べようがない。



本当に加納さんの言う様に、

二人を脅迫した人物なんていないんだろうか。



佐々木が死んだ事に動揺した、

経田の狂言でしかなかったんだろうか。



それを聞き出したいと思っても。



今更。



死者は、何も語りはしない。

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