「何? いきなり」



呼んだのは山川さんの方なのに、

何? はないと思うけど。



「わ、山川さんっ! 前、前!」



信号待ちで停止した前の車が視界に迫って、

意味がないとわかっていても仰け反ってしまった。



「あ。危ない」



全然感情の籠もらない声で呟いて、

山川さんは表情を変えずにブレーキを踏んだ。



キーッとタイヤと道路が摩擦する音がして、

パトカーはガクンと前のめりになって停止した。



「ふう。危ない、危ない」



パトロール中に追突事故を起こしそうになったと言うのに、

山川さんの声は全然緊張感がない。



こっちは結構心臓バクバクだと言うのに、

焦るだけ損した気分になった。



「で、何?」


「は?」



信号待ちをいい事に、

山川さんが私に顔を向けた。



何、って。



「あの。

元はと言えば、

山川さんが私に話し掛けて来たはずなんですけど」



半分顔が引きつるのを感じながら

首を傾げてそう返す。



山川さんは初めて思い出したと言うように、

あ、の形で口を開いた。



「そうだった。けど」


「けど?」


「びっくりして、忘れた」

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