さっき誤魔化そうとしたせいか、

三浦君はずっと機嫌が悪くて寡黙だった。



そんな二人のやり取りを横目にしながら、

私はもう一度店内を見回した。



もし見掛けたらどうしようか、

具体的に考えていた訳じゃない。



だけど見つからなきゃ見つからないでがっかりして、

グラスを両手で支える様に持って、

中の氷を揺らした。



「いらっしゃい」



ドアが開く音がしてマスターが顔を上げた。



それにつられる様にして私も顔を上げて、

何気なく入って来たばかりの客に視線を向けて。



「……!」



思わずガタンと音を立てて立ち上がった。



隣りの三浦君が驚いて私を見上げて、

そして私が見ている方向に視線を向ける。



マスターも私に気を取られて、

入って来た客から注意が逸れる。



そして。



―――彼女は。



そうやって二人の注目を浴びた私に、

不審そうな視線を向けて。



ハッとした様に表情を強張らせた。



踵を返すと、入って来たばかりなのに

ドアを開けて出て行ってしまう。



「待って……!」



その態度で確信した。



私を見て逃げ出すなんて、

間違いなく彼女は―――



駆け出して行く背中を見失わない様に、

私は慌てて荷物を抱えると

店内の客の間を縫う様にしてその後を追った。



「え、塔子さん……!!」



焦った様な三浦君の声が追って来る。



だけど振り向いてる余裕はなかった。

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