与えられた新しい世界で、

彼だけを見て、彼だけを全てにして生きていけたら、

きっとその方が幸せだったんだと思う。



何も怖い事なんかない。



悲しい事も苦しい事も辛い事も。



私が経験する前に、彼が私を守ってくれる。



だけどこの世界には

私の感情がどこにもなかった。



楽しいとか嬉しいとか、愛しいとか。



あの事件の前には当たり前にあった感情は、

彼との生活の中で生み出す事は出来ず。



そういう物を求める様になったのは、

私の心があの事件から

やっと動き出したからだろうって思った。



それならばいい傾向だとも言える。



蒼甫と過ごした日々の中、

いつも私の中心にあった大事な感情。



誰かを、愛するって気持ち。



この世界にずっと彼といるのならば、

私は彼を愛したいと思った。



事件から気が遠くなる位の時間を経て、

私はやっと、自分の心から蒼甫を切り離そうと決意した。



この世にいない、もう逢えない蒼甫に縛られるよりも、

今の私を抱いてくれる彼に、

心ごと全部あげてしまいたい。



皮肉な事に、

私の決意で、

与えられた世界は綻び始めた。



フィルター越しに見ていた彼を、

真っ直ぐ裸眼で見る様になった、そんな感覚だった。



そうして初めて、

今までは気にしなかった事を気に留める様になる。



初めは些細な引っ掛かりだった。



だけど意識してみるようになると、

大きな違和感になり、

それは確かな疑惑を生む。

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