久遠の花〜 the story of blood~【恋】

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 嫌な声が聞こえてから数日。

 あれから声も聞こえることなく、襲われることも起きていない。

 これなら大丈夫かなと思い、今日は昼から、街に買い物に来ていた。いつもは一人だけど、珍しく友達と一緒に。


「ねぇ杏奈。ここ、入ってみよう!」

「わかったから、そんな急かさないで」


 一緒にいるのは、入学式の時から話しかけてくれた倉本さん。

 こうやって友達と遊ぶなんて無かったから、私はすごくはしゃいでいた。

 クラスの人にはまだ敬語だけど、今ではお互い名前で呼び合うほど、すっかり打ち解けている。

 ショッピングを終えた今、私たちはカフェに入り、ケーキを食べながら雑談を始めた。


「今度は、映画でも見に行こっか」


 雑誌を広げ、どうかな? と聞かれる。


「うん、行こう! なにがいいかなぁ?」

「ん~とりあえずは、来月あるコレなんてどう?」


 雑誌をめくり、杏奈が幾つかおススメの映画を選んでくれた。

 本当、こうして友達と遊べる日が来るなんて、すごく嬉しい。

 体調が悪くなっても、杏奈は変に気を遣わないから、私も気楽に接することができていた。


「じゃあ、来月はこれで――あ、ごめん電話」


 電話に出るなり、杏奈の表情が変わる。なにを話しているかわからないけど、明らかに面倒臭そうな様子なのは見てわかった。


「うん、うん――わかってるから! じゃあ、また後で」


 電話を終えると、杏奈は突然ごめん! と、私の目の前に両手を合わせ謝ってきた。


「急に、どうしたの?」

「えっと……今、親から連絡あってさ。迎えに来いって言われて」

「そうなんだ。じゃあ、ここでお別れだね」

「ホンっトにごめん! 家まで送るって言ったのに……」

「気にしないで。調子いいし、ちゃんと帰れるよ」

「それならいいけど……なにかあったら、すぐに電話してよ?」

「約束する。ほら、早く行ってあげないと」

「あ、うん。――じゃ、また学校でね!」


 自分のお代をテーブルに置くと、杏奈は急いでお店から出て行った。

 私もそれからすぐにお店を出て、夕暮れの道をゆっくりと歩いていた。
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