愛は満ちる月のように

(2)嫉妬

「今になって思えば、ユウさんより、真くんのほうが優しかったのね」


ショートケーキの上のスポンジを突きながら、美月はそんなことを口にする。

弟の名前が出たことに、悠はドキッとした。


「今にって……君が知ってるのは七年も前のアイツだろう?」


そんな悠の言葉に美月は微笑んで首を振った。


「いいえ。真くんと最後に会ったのは、去年の夏よ」

「去年って……」

「ええ、ボストンまで会いに来てくれたの。大学に入ってから四年間、毎年、ね」


悠は何も知らなかったことに、ショックを受けていた。


初めて、真がボストンを訪れたのは四年前の夏。バイトと貯金をはたいて、夏休みのうち二週間をボストンに滞在した。

美月は驚いたが、変わらない真の態度に、彼女も普通に接したという。

そのとき、美月は悠との結婚が形だけのことだと伝えた。


「だって、あなたがいない理由をちゃんと話さないと……。真くんは怒って、日本に帰ったらあなたのところに怒鳴り込んで行きそうだったから」


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