他に客はいない個室同然の二階席に座り、ふたりは出された食事を終えた。
 
コーヒーが美月の前に置かれたとき、彼女はごく自然に「ありがとう」と口にする。その気遣いと優雅な振る舞いは見ているだけで心地よい。

悠が何も言わずにじっと見つめていると、美月は困ったように口を開いた。


「ユウさん、私の格好はそんなにおかしいかしら?」

「え? ああ、いや……だが、生活を切りつめている、という訳じゃないんだろう?」


サイズの合わないスーツが気になり、ついつい余計なことを言ってしまう。


「もちろんよ。このスーツのことが気になるのね。これは……身長のわりに貧相な胸とヒップを隠したいだけ。それに、私はウォール街で働いている女性とは違うわ。シェルターの弁護士なんだもの」


ひと息に言うと彼女はコーヒーを口にした。


美月が顧問弁護士をしている『ボストン・ガールズ・シェルター』はいわゆる女性救済センターだ。

あらゆる暴力の被害者となった女性を保護し、法的な救済から自立まで支援するシステムになっている。公的機関の介入や圧力から入所者を守るため、民間の寄付による運営を基本としていた。


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