愛は満ちる月のように
水の入ったグラスを取ろうと、美月は指を伸ばした。その指は小刻みに震えている。そして、グラスを掴み損ね、倒しそうになったとき、悠の指がスッとグラスを持ち上げた。

残った手で美月の手を握る。


「とりあえず、連中の現状を調べさせてみよう。君自身、安全と言い切れないから、実家にも戻らず僕の元に来たんだろう? しばらくは僕のマンションに滞在すると……」

「結構です!」


そう言うと同時に美月は手を振り払った。


「空港で紹介していただいて、暁月城ホテルに部屋を取りましたから。それと……いくら夫婦とはいえ、馴れ馴れしく触らないでください」

「嵐がきたら、ひとりで寝るのは怖いんじゃないかな? 美月ちゃん」


小さな子供に話しかけるように言うと、美月は立ち上がってバッグを掴んだ。


「その呼び方はやめてください! 不愉快だわ」


美月は階段に向かいながら悠を振り返った。


「あなたはとても紳士的で立派な方だと思っていたのに……。この六年で随分変わってしまったんですね。これ以上、失望させないでください。失礼します!」


悠は何も答えず、そして、彼女のあとを追わなかった。
 
 
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