愛は満ちる月のように
ところが、桐生久幸、友朗兄弟は――桐生の権力を維持するためには後継者である美月の存在が不可欠。婚姻なくしては桐生家の主とは認められない、と言い、彼らは美月をも拘束した。


美月は桐生兄弟により、弟の小太郎(こたろう)と共に数日間監禁された。

小太郎は言葉が出るのが少し遅いが、とても穏やかな心の持ち主だった。そんな弟の前にいるときは自然体でいられる。父や大人たちがいると母に似ているフリをしてしまい、その一方で、同級生たちの中だと気を張り続けていた。

もし、ずっと父とふたりきりだったら、美月はどこかで壊れていたかもしれない。

花や動物を愛し、優しい思いを溢れさせている小太郎の存在が、美月に心のゆとりをくれ……家族の温もりに甘えてもいいのだ、ということを教えてくれた。

母と同じになろうと続けてきたピアノやバレエ。でも、高校に入学したらどちらもやめよう。

父に実の娘と思い続けてもらうことが人生の目標ではなく、本当にやりたいことを探してみよう。

――そう思った矢先の出来事だった。


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