愛は満ちる月のように
その突拍子もない返事に、悠は首を捻る。

少しして……それが、悠が家族と過ごした最後のクリスマスのことだと思い出す。



幼稚園に通う末っ子の紫(ゆかり)や小五の真の友だちを招き、パーティをしていた。母がイチゴのケーキを作ったが、招いた友だちの数が多く、上に乗ったイチゴが足りなくなってしまう。美月は何も乗っていない部分を最初に取ったが、真はそれを遠慮だと思い、大きなイチゴの乗った自分のケーキと取り替えた。

だが悠の目に、美月は明らかに困った様子で……。真が離れた隙に横から手を出し、悠がイチゴだけ食べたのだ。



『普通はみんな好きな物でしょう? だから、苦手だと言い難くて……お兄さんは気づいてくれたから』


なんのことはない。下が三人もいるので苦手な物を目にした顔はすぐにわかる。両親の目を盗んで、ニンジンやピーマンを食べてやった経験だった。



たったそれだけのことで、悠を信じたという美月。このとき、彼の中にひとつの思いが芽生える。

十六歳の美月をなんとしても守ってやりたい、と。


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