大きな鏡の中からひとりの女性がこちらを見ていた。そこに映っているのは、彼女自身が知らなかった彼女の顔。

それは恋を知った女の顔だった。


美月は今、悠のマンションにいた。それもシャワーを浴び、洗面台の前に立って濡れた髪を拭いている最中だ。

あのあと、悠は問答無用で彼女を自分のマンションに連れ帰った。

美月自身、あの部屋にひとりでいることが恐ろしく、ついつい、悠の言いなりになってしまい……。


――わかった。君の願いを叶えてやる。


美月の中でその言葉がずっとリフレインしている。

悠は彼女の話を聞いてくれる気になっただけだ。まだ、イエスと言われた訳ではない。だが悠なら、美月が望めば、きっと叶えてくれるはず。

ひとつだけ問題があるとすれば……。

もし悠が人工授精ではなく、別の形で美月の妊娠を望んだら? ということ。


(さっきのキスを考えたら……ありえないことではないわ)


ただ唇を重ねただけのキスなら美月も知っている。でもあのキスは全く違った。悠は美月をひとりの女性として扱い、抱きしめてくれた。


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