愛は満ちる月のように

(5)教えてください

美月の背後からクスクス笑う声が聞こえる。


「やるね。これで一条は血相変えて飛んで帰ってくるよ」


那智は長めの前髪をかき上げながら言った。


そこは、マンションのエントランス横にあるコミュニティルームだ。

十個ほどの円形テーブルがランダムに配置され、各テーブルにイスが四脚セットされている。ドリンクやアイスクリームの自動販売機が部屋の隅に置かれていて、住人同士で寛ぐことも、人目のあるところで接客することも可能な場所だった。

そのひとつに那智と美月は向かい合って座っている。



美月が外に出ようとしたとき、フロントに立つ管理人に呼び止められた。


『一条様の奥様でございますね。お出かけでしたら、ハイヤーをお呼びいたしますが』


その言葉に美月はピンときた。おそらく、そのハイヤーで目的地に到着したときには、悠が待ち構えているような気がする。

美月の身を案じてのことだとはわかっている。だが……。


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