女王様のため息



*   *   *



「三三九度って、本当にお酒を飲むんだね」

「そうだな。俺、一気飲みしそうで緊張する」

「あー、確かに、緊張するだろうなあ。祝詞もうまく言えるのかなあ」

「書いてる文言を読むだけだろ?まあ、なんとかなるだろ」

「んー。とりあえず、一生に一回の事だもんね、頑張ろう」

そっと司の手を握ると、その途端に握り返してくれる力を感じて視線を上げた。

睡眠不足で薄いクマが目の下に浮かんでいるけれど、その瞳は温かく揺らめいている。

気のせいではなく、確かに頬もシャープになっているその顔からは連日の忙しさによる疲れを隠せない。

「また痩せた?」

アマザンホテルのエレベーターの中、私は心配した声で、司に聞いた。

設計部が一丸となって進めている大きなプロジェクトが佳境を迎えて、深夜までの仕事が続く司。

本当ならせっかくの休日だから、家でゆっくりと体を休ませたいはずだろうに、来週に迫った私たちの結婚式の打ち合わせの為にアマザンホテルを訪れていた。

式と披露宴に関する段取り全ては既に決まっていて、あとは体調をととのえて当日を待つだけとなっていたけれど、披露宴でヴァイオリン演奏をしてくれる暁のリハーサルを見る事になって急きょやってきた。

その実力が高い評価を得ている暁だから、特にリハーサルが必要とも思えないけれど、

『俺にとっては大切な友人たちに聴いてもらう演奏だから、リハさせて欲しい』

と言って事前のリハーサルが行われる事が決まったのは昨夜。

私と司は行かなくても大丈夫だという事だったけれど、ゆっくりと暁の演奏を聴いた事がなかった私は生演奏を聴いてみたかった。

そんな私の気持ちに気づいた司は、疲れているにも関わらず一緒にアマザンホテルに来てくれた。



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