マスカケ線に願いを

「けど、この時間だと物騒になるぞ、ここ」

 先ほどの私の嘘にも出てきたけれど、この一帯には本当にやくざがいる。
 だけど、それでもやっぱり帰りたくない。

 私はうつむいた。

「……うちくるか?」

 黙りこんだ私に、ユズがそう申し出た。
 私はユズを見る。

「……ユズも私をお持ち帰りしたいの?」

 ひどく直接的で、厭味な言い方だったに違いない。それなのにユズは、気分を害した様子もなく、声を上げて笑った。

「お持ち帰りには違いないな。せっかくだから食事でも作ってもらおうかと思ったんだ」

 私はきょとんとユズを見た。

「彼女に頼めばいいじゃないですか?」
「あいにくフリーなんでね。一人で外食ってのも寂しいだろ。かといってコンビニ弁当という気分にもならないんだ」

 私は呆れてしまう。

「材料はあるんですか?」
「冷蔵庫は空だと思う」

 打てば響くように返事がある。

「呆れた」
「帰りたくないんだろ?」

 ユズの目が、私を捉える。
 それは何もかもを見透かしているような目だった。

「……わかりました。それじゃあ、買い物に付き合ってください」

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