マスカケ線に願いを
幼い頃から、しっかりした子と言われてきた。
私の行動に親が口出しをすることはなかったし、私もそれが普通だと思って育ってきた。
甘い親なのかと訊かれると、私はそうは思わない。なぜなら、私の親はいつも私に責任を負わせたからだ。
私がやったことは、ほかの誰でもなく私の責任。
だから私は自分の行動に責任を持つことを、当たり前に実践してきた。
全部自分で計画を立てて、全部自分の責任で行動する。
それを当たり前のこととして実践してきた私にとって、多くの人が自分の行動に責任を取れていないということは、少々面食らう事実でもあった。
「美人でしっかりしてて、本当にうちの娘にも見習って欲しいものだ」
「主任、肩でもおもみしましょうか?」
うなずきながらそんなことを言う佐々木主任に、私は肩をもむ仕草をしながらそう言った。
「ははは。ああ、そうだ」
笑っていた佐々木主任は、何かを思い出したように手を叩いた。
「大河原君、ちょっとついでに頼まれてくれ」
「なんでしょう?」
そして自分のデスクの引き出しから茶色い封筒を取り出した。
「これね、上で必要な書類なんだ。久島弁護士の検案だから、届けてくれないか?」
「わかりました」
「そのあとは上がってくれればいいからね」
「はい」
私は茶封筒を受け取った。どうやら裁判で使う資料のようだ。
久島弁護士とやらの顔は知らないけれど、それは上で聞けばいいだろう。