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 私は、男でも女でも、綺麗な人が好きだ。私の悪い癖かもしれない。
 ありきたりな言葉で表現すれば、面食いである。
 自慢じゃないけど、私の友達は美形そろいだ。
 でも、本当は見た目だけで友達を選んでるわけじゃない。
 私の中身を見てくれる人しか、友達となんて呼ばないから。
 もともと人付き合いが苦手な私は、浅く狭い人間関係というのが常だった。
 必要以上に親しくなるのが、恐いのかもしれない。
 だから本当に仲のいい、友達といえる友達は、数えられるくらいしかいない。

 面食いの私は、綺麗な人を見つけたら、綺麗だな、かっこいいな、って感心する。
 そしてよほど興味を持ったら、仲良くなりたいな、って思う。

 この桜の男の子は、後者の場合だった。
 物凄く好きなタイプの顔で、人の目をひきつける雰囲気を持った人だった。

 その男の子は、一緒にいた仲間に呼ばれて、会場の方へと歩いていった。
 私も本来の目的に気づいて、慌てて会場に向かった。


 割り当てられた席について、ちらちらと辺りをうかがってみたけど、あの桜の子は見つけられなかった。
 偉い人だか、なんだかわからない人の話は、あんまり私の頭の中には入ってこなかった。


「ただいま……って、誰もいないか」

 大学入学を機に始めたアパートでの一人暮らし。
 私はぼふっとソファに倒れこんだ。
 まず第一に思い浮かんだのは、桜の木の男の子だ。

「かっこよかったなぁ……また会えたら良いな」

 にやけていた私は、ふとあれを思い出して、落ち込んだ。
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