絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ

インテリヤクザとホテルで

 翌日、まず一流メーカーのジャージ上下とシューズは後々も使おうと決意して購入し、夜になって、会員証片手にホテルへ入った。
 入るなり、ロビーで会話している人達の服装や会話が気になって仕方ない。今まで巽の側で何とも思わなかったことが、突然気になり始め、やはり普段使いのバックもブランド物を一つくらい持っていなければ。デザインバックなど持っている場合ではないと改めて感じさせられた。
 それに、服もそう。学生が着るような物をいつまでも着ている年ではないと、自分に言い聞かせながら、エレベーターを上がる。
 小さく溜息が出た。巽がそれをあからさまに言わなかったのは、やはり、その素人っぽさというところがよかったからだろうか。だとしたら、ブランド物のバックというのは、方向がずれるのだろうか。
 延々悩みながら、受付をスムーズに済ませる。良かった、会員証を貸したことは、あま
り関係ないらしい。
 予想以上にで綺麗でサービスが行き届いた施設に驚きながらも、ロッカールームに入る。緊張の一瞬だ。
「…………」
 なんだ、良かった。普通のおばさんじゃん……。
 午後8時、更衣室は大勢の人であふれているのではないかという予想は外れ、室内はゆったりとした空気で、数人の人が髪や服を整えているだけだった。しかも、年はわりと上。香月のような若い人はこんな早い時間には来られないのかもしれない。
 そう思い直して、思う。そういえば、巽も深夜に帰って来ることが多い。としたら、どの時間帯をジムに使っているのだろう。こういう普通の人が来られる時間には顔を出さない気がするが閉店は11時だし……。
 考えながら、ジャージに着替える。
 プールがあることも把握済みだったが、面倒なので、ランニングマシーン一つに絞ることに決意していた。というか、それ以外の器具の使い方を知らない。
 いざ、トレーニングルームに入る。
「……」
 夜景が綺麗。最初に目に飛び込んだのはそこだった。
 トレーニングルーム=閉鎖的な空間と思い込んでいたのは、貧乏人の知恵なのか、そこは想像以上に開放的な空間だった。更に、おじさんが多い。これも予想では、若い筋肉マッチョな人が重りをつけて筋肉を鍛えていると思っていたので、そこも外れた。
 まずランニングマシーンを見つけ、すぐにそちらに向かう。なるべく堂々としていよう。それが今日の課題だった。
 ところが、ランニングベルトの上に乗り、いきなり戸惑い操作盤をじっと見つめた。
スタートをまず押して、速さを変えていくということなのだが、一応何がどうなるのか、一つずつボタンを確かめなければ恥をかいてしまうかもしれない。
 そう考えて、ゆっくりボタンを押そうとした時、
「初めて?」
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