絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ

巽の体温

 時計をもう一度確認、大丈夫、さっきから2分しか過ぎていない。
 巽の携帯に午前中に留守電を入れたのにも関わらず、何の連絡もないまま実に丸一日が過ぎようとしている。現在午前3時2分。
 留守電を聞いてない可能性は低い。多分、電話する暇がなかったか、する気がないかのいずれ。多分後者の方が確率は高い。
 そりゃそうだ……友達じゃない。
 多分東京マンションまで来ていただろう。そして、エントランスに出てこないから、怒って帰った……。
 こちらが頭を下げなければいけない。それも、充分深く。
 香月は意を決して携帯電話の発信ボタンを押す。
 コールは留守電に切り替わったら諦めて切るつもりだったので、一瞬声を出すのが遅れた。
 意外にも巽は、7回目で「はい」と低い声を出した。
「もしもし、ごめん、今大丈夫?」
『……何だ?』
 目を閉じた。怒っているのが声で分かる。
「あの、朝留守電に入れたんだけど聞いた?」
『いや』
 ……本当か……?
「あの、ごめんね、私、体調悪くて……いけなかったの……。家に帰れなくて……。ほんと、ごめんなさい」
 神妙な声は伝わっただろうか?
『心配するな、行ってない』
「え……?」
『お前ほど暇じゃないからな』
 それって、私が例え待っていたとしたら……。
「……そう……だよね」
「もう切るぞ」
 電話はいとも簡単に切れた。
 強引に。
 自分が宮下にしたのと同じように。
 多分きっと、巽にとっては一夜限りの女で、自分はそれに気づかなかっただけだ。
 でもいやだって……昨日はあんな簡単に承諾してくれた……。
 自ら迎えに来ると言ってくれた。
 やっぱり来て待ってた?
 ロビーで確認しようか……。
 もう一度巽に連絡する前に、ロビーに内線電話をかけてみる。
「あの、すみません、昨日の午前3時頃ですけど、エントランスの前にBMWが停まっていたかどうか、調べてほしいんですけど」
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