甘い誓いのくちづけを
どうしてだろう……


初対面の、どこの誰かもわからない男性に付いて行く気になった理由は、考えてみてもよくわからなかった。


ただ、今は一人になりたくないと思ったのは、事実…。


もしかしたら、それが頷いた理由の全てなのかもしれない。


「ありがとう」


男性(カレ)はそう言って柔らかく微笑むと、あたしに立ち上がるように促した。


左手が握られたのは、その直後の事。


咄嗟に手を引っ込めようとしたけど、無言のまま益々強く握られてしまって…


「行こうか」


あたしは、向けられた笑顔に大きく高鳴った胸を隠すように、胸元でバッグを抱えた。


そして…


鈍色のリングを失ったばかりの左手を、眉目秀麗な男性(ヒト)に預ける事にした――…。


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