甘い誓いのくちづけを
「キールだよ」


目の前で揺れた赤い液体が、理人さんの顔を益々秀麗に見せる。


「一応カシスリキュールで作られてるんだけど、ちょっと飲み難いかもしれない」


彼の声に耳を傾けながら、グラスを受け取った。


「君の選択は正しかった。だからきっと、君は幸せになれるよ」


それはきっと、その場凌(シノ)ぎの励ましの言葉。


だけど…


向けられた瞳は嘘偽りが無いと思える程に真っ直ぐで、その微笑みもやっぱりとても優しくて。


傷付いたあたしの心に、ほんの少しだけ光が射し込んだ。


ゆっくりと口を付けたグラスから、カクテルを流し込む。


生まれて初めて飲んだキールは、失恋したばかりのあたしの心の中を映しているような辛口だった――…。


< 48 / 600 >

この作品をシェア

pagetop