スノードロップ
スノードロップ

 あの男は決して「駄目」だと否定しない。貰ったドレスや宝石を窓から投げ捨てても、出された温かい食事を目の前で倒しても。そして訊く。「君は作り手の気持ちを捨てるのか?」と、まるで親が子供に言い聞かせるように。スノウがあの男の言葉に反応を示した試しがない。同じ部屋にある息遣いは、風の音。ふいに話しかけられる声は、小鳥の囀り。両手に持ちきれないほどのプレゼントは、街路で人々に踏みつけられる落ち葉。だから気にしない。だから捨てる。そんなスノウの動きに、あの男は決して「駄目」だと否定しない。

 だって言えるわけがないのだ。

 双子の兄の目の前で、スノウを手籠めにした張本人なのだから。

 けれど、たった一度だけ。

 あの男が「駄目」だと、スノウの行動を否定した。
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