愛★ヴォイス
イツワリノ【名前】
それから数時間後、会はお開きになった。

話上手な三田君のおかげで、場は終始話題に尽きることはなかった。

改めて彼の知識の幅には舌を巻く。

彼の話に相槌を打つ部長の姿にも、普段とは違う柔らかさが感じられて、何だか微笑ましかった。

そして何より、時折聞こえる桐原さんの声が耳に心地よくて、久しぶりに飲みの場を十二分に楽しんだ。



「ご自宅までお送りしなくて、本当に大丈夫ですか?」


タクシーの扉に手をかけて、三田君が再び念を押す。

私は同様に片手を振って応えた。


「本当に大丈夫です。まだ時間も早いし、電車で一本ですから」


気分が良くて少し歩きたい気がしていた。

おまけに、あんな二人の仲の良さを見せつけられて、これ以上お邪魔するというのも、野暮な話だ。



ネオン街に消えゆくタクシーを見送って、近くの駅までの一歩を踏み出した時だった。



「真下さん」



思いがけず、後ろから呼び止められた。



振り向かなくても判る。


この、水面を揺らすように、じわじわと胸を焦がす声。
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