蒼幻の天使~A Solitary Flower

頬を伝うモノ

「私が敵か味方かってどういうこと?」

男はゆっくりと先ほどママが映っていたミラーを振り返る。

ミラーに映っているのは、蒼い瞳をした私と男の姿だけ。

「お前は、母が誰なのか知っているのか?」

さっきまでとは打って変わって水を打ったように静まり返ったミラーハウスの中に、男の艶やかな声が波紋のように広がる。

「ママが誰って…。私のママの須藤加奈。それ以外に何があるっていうの?さっきミラーに映ってた女性は、ママの若い頃にそっくりだった。あれは一体……なんなの!?」

「自らの運命も、母の運命も、何も知らぬ無垢な乙女……か?」

「え?」

男は私から視線をはずして立ち上がると、左手の細く長い指を目一杯広げてミラーにかざした。

瞳を細め、ミラーを一心に見つめる。

男の左手から蒼の光が波紋のように流れ出したかと思うと、ミラーが水面のように波うち出す。

ミラーが水面のようにゆらゆらと揺れている!?

パシャーン!!

水がはじけるような音が聞こえた、と同時に、
ミラーハウス内のミラーというミラーが全てはじけるように飛び散り、蒼の光の粒子がミラーの破片とともに雨粒のように降り落ちてきた。

蒼の光の雨。

それはゆっくりとスローモーションのように。

私は、身動き一つできずに、見ていた。

「きれい」なんて口にしてしまいそうなほどに、それは美しくて。

蒼の光と破片の中で私を振り返った男は、まるで雨の中に凛と咲く蒼い花のように美しくて、私の心を震わせた。

その瞳は冷たいのに、儚げで、どこか……愛しい。

……!?




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